9月11日、東京都教育委員会は、2024(R6)年度入試より、都立高普通科の男女別募集を推薦入試を含めて男女合同募集に移行すると発表しました。
男女別募集から男女合同募集に移行することで入試にどのような影響がでてくるのでしょうか。
今春の選抜状況をみながら考えてみましょう。
東京都教育委員会が発表した情報はこちらからご覧になれます。
令和5年度東京都立高等学校入学者選抜における男女別定員の緩和措置の実施状況等及び令和6年度入学者選抜からの男女合同選抜への移行について|東京都教育委員会ホームページ
1.男女別定員から男女合同選抜への移行の経緯
これまで男女別募集によって生じた男女の合格ラインの差を解消する方法として、一般入試に「男女別定員制の緩和」という制度を導入していました。これは「募集人員の9割を男女別に選考し、残りの1割を男女合同で選考する」というしくみです。
この制度を下記の表にあるように2022(R4)年度では男女別募集の全校で実施し、翌2023(R5)年度は男女合同枠を1割から2割に拡大しました。
そして、来春の2024(R6)年度入試より、推薦入試も含めて募集人員のすべてを男女合同で選考することになったのです。
実施時期 | 移行措置 |
---|---|
2022(R4)年度入学者選抜 | 男女別定員のうち男女合同で決定する割合の10%で実施 |
2023(R5)年度入学者選抜 | 男女別定員のうち男女合同で決定する割合の20%で実施 |
2024(R6)年度入学者選抜 | 男女合同選抜(推薦に基づく選抜)も含む |
2.緩和措置の実施状況
東京都教育委員会では2022(R4)年度入試と2023(R5)年度入試で、それぞれの男女別合格者数が男女合同募集になったと仮定したときの合格者数を比べてどのような結果になるか公表しています。
男女別定員制の緩和の男女合同枠を1割とした2022(R4)年度入試では、実際の合格者数と男女合同選抜を実施した場合の合格者数が同じ結果になった学校が81校で全体の74%、女子の合格者数が増加した学校が23校21%、男子の合格者数が増加した学校が5校5%となりました。
男女合同枠を2割に拡大した2023(R5)年度では表にあるように、男女合同募集でも合格者数が変わらない学校が9割強に達しています。
男女合同選抜と 男女の合格者数が同じになった学校数 | 女子の合格者が 増加する学校数 | 男子の合格者が 増加する学校数 | |
---|---|---|---|
2022(R4)年度 10%緩和 | 81校(74%) | 23校(21%) | 5校(5%) |
2023(R5)年度 20%緩和 | 99校(92%) | 9校(8%) | 0校(0%) |
3.男女合同定員と男女別定員の合格者数の男女差
2023(R5)年度入試で実際の合格者数と男女合同募集になった場合の合格者数に差が生じると示されたのは次の9校でした。
【男女合同募集を行った場合男女の合格者数とボーダーラインに差が出る学校】
- 三田
- 鷺宮
- 竹台
- 富士森
- 神代
- 広尾
- 豊多摩
- 竹早
- 日本橋
いずれの学校も男子よりも女子の方が合格者が多くなると予想され、三田では下記のように男子は77人の合格者数に対し女子はその倍以上の164人の合格者がでるとしています。
【三田】
性別 | 募集人員 | R5年度合格者数 | 合同募集時の 合格者数 |
---|---|---|---|
男子 | 124 | 100 | 77 |
女子 | 113 | 141 | 164 |
しかし、広尾、豊多摩、竹早、日本橋は合同募集になったとしても、2023(R5)年度の合格者数と数人の差しかなく、女子の合格者が10人増えると見込まれる学校は三田も含めて5校に過ぎません。
従って多くの学校では2024(R6)年度入試で男女合同募集になっても、今春の入試状況と大きな差はないと考えることができます。
【広尾】
性別 | 募集人員 | R5年度合格者数 | 合同募集時の 合格者数 |
---|---|---|---|
男子 | 81 | 65 | 62 |
女子 | 74 | 93 | 96 |
【豊多摩】
性別 | 募集人員 | R5年度合格者数 | 合同募集時の 合格者数 |
---|---|---|---|
男子 | 132 | 106 | 103 |
女子 | 121 | 150 | 153 |
【竹早】
性別 | 募集人員 | R5年度合格者数 | 合同募集時の 合格者数 |
---|---|---|---|
男子 | 93 | 75 | 73 |
女子 | 85 | 105 | 107 |
【日本橋】
性別 | 募集人員 | R5年度合格者数 | 合同募集時の 合格者数 |
---|---|---|---|
男子 | 111 | 89 | 88 |
女子 | 101 | 123 | 124 |
一方、推薦入試でも2024(R6)年度より男女合同募集が行われる予定です。推薦入試は一般入試と異なり選抜における調査書の比率が高いため、男女間の合格者数で一般入試以上の差が生じる可能性があります。
以下の【表1】はすでに男女合同募集を行っている単位制普通科の推薦入試と一般入試の合格率です。 推薦入試の場合は応募者数に対する合格者数の割合を出しています。推薦応募者には文化・スポーツ等特別推薦と一般推薦の両方に応募した場合2人にカウントされるためで、表中の「合格者の割合」は正確な合格率ではありません。
これをみると一般入試の合格率は男女とも大きくは変わらず、むしろ墨田川や美原のように男子の合格率の方が高い学校もあり、女子に有利な入試になっているとはいえません。
しかし、推薦入試になると様子が変わります。中には新宿や上水のように男子の方が合格者の割合が高い学校もありますが、そのほかの学校では女子の方が圧倒的に有利になっていることがわかります。大泉桜は男子が20人応募しましたが合格者はいませんでした。
一般入試では調査書の不足分を学力検査で補うことができますが、推薦入試では学力検査がない上、選抜では調査書の比率が高く設定されており、調査書点が合否に大きな影響を及ぼします。また女子の応募者が多いのも女子の合格者が増える要因になっています。
従って、推薦入試においては男女合同募集の影響は大きく、男子の合格者が少なくなる可能性があります。
<表1 単位制普通科の推薦入試と一般入試の合格率>
学校名 | 性別 | 【推薦】 合格者の割合 | 【一般】 合格率 |
---|---|---|---|
新宿 | 男子 | 21.8 | 51.0 |
女子 | 14.9 | 49.5 | |
忍岡 | 男子 | 23.5 | 100 |
女子 | 68.3 | 100 | |
墨田川 | 男子 | 31.7 | 81.0 |
女子 | 44.0 | 74.4 | |
美原 | 男子 | 17.3 | 88.5 |
女子 | 31.6 | 74.1 | |
芦花 | 男子 | 13.5 | 53.6 |
女子 | 36.4 | 54.6 | |
飛鳥 | 男子 | 23.1 | 94.4 |
女子 | 57.8 | 93.5 | |
板橋有徳 | 男子 | 30.8 | 100 |
女子 | 74.4 | 100 | |
大泉桜 | 男子 | 0 | 100 |
女子 | 37.4 | 100 | |
翔陽 | 男子 | 44.0 | 98.0 |
女子 | 58.7 | 96.9 | |
国分寺 | 男子 | 31.1 | 68.9 |
女子 | 35.4 | 64.9 | |
上水 | 男子 | 40.5 | 79.2 |
女子 | 33.3 | 77.6 |
<表2 単位制普通科の推薦入試と一般入試の定員ならびに合格者数>
9月29日に都教委より「令和6年度 東京都立高等学校入学者選抜実施要綱・同細目」が発表されました。
上記で示した一般入試の男女合同選抜で男女の合格者数に差が生じた三田、竹早、鷺宮では調査書や小論文・作文の比率を変更したり集団討論を実施するなどして調査書の影響を抑えるような動きがみられます。 これらの措置によって男女の合格ラインの差が解消されるかはわかりませんが、男子の受検者は調査書点が不足していると思えるようであれば、集団討論や作文・小論文でその不足分を補えるよう対策をとる必要があります。
詳細は下記リンクをご参考ください。