前年度に引き続き、コロナ禍の中で行われた神奈川県公立高入試はいったいどのような特徴があったのでしょうか。
共通選抜(全日制)の特徴
志願倍率は下がり公立高離れが進行、2020年度と同じ過去最も低い倍率に
共通選抜(全日制)の募集人員40,530人に、志願締め切り時の志願者数は47,561人、志願倍率は1.17倍で前年度(1.18倍)より0.01ポイントダウンしました。この時点で志願者数が募集人員に足りなかった定員割れの学校は50校、欠員の数は1,929人に及んでいます。
志願変更した人は3,197人で志願者数の6.7%でした。志願変更後の志願確定者数は47,513人、志願確定倍率は締切り時と同じ1.17倍、この倍率は2020年度と同じ過去最も低い倍率です。
次のグラフにあるように、生徒数に対する公立の志願率は下降しており,公立高離れが進行しています。この背景には私立高校に対する学費補助金制度の浸透があります。また、2021年度と今年度の2022年度はコロナ禍の中で早めに進路先を決めたいという考えが働き私立推薦入試への流れも生じています。
過去最高倍率を記録した学校が多かった一方で定員割れ校も多く人気校不人気校の格差拡大
志願変更は高倍率校の倍率を下げ、低倍率校の倍率を上げる目的がありますが、その効果が年々薄らいできています。
次のグラフは志願変更時の欠員数と変更後の欠員数を並べ、志願変更によって欠員の数がどれくらい解消できたのかを示したものです。これを見ると2017年度は欠員数の8割近くが志願変更によって解消され、志願変更後の欠員数が大幅に減りましたが、2022年度は志願変更前の欠員数の2割程度の解消にとどまり35校1,479人の定員割れ・欠員が残りました。つまり、志願変更前に高倍率だった学校は変更後も高倍率を維持するし、変更前に定員割れだった学校は志願変更後も定員割れのままの、という人気校不人気校の格差が固定されつつあるということです。
例えば、鶴見や横浜翠嵐、鎌倉、湘南台などは志願変更で志願者は減少しましたが過去最高倍率は維持、二宮や寒川、秦野曽屋、愛川などでは志願者は増加したものの定員割れからは抜け出せませんでした。
もちろん、市立東が1.62倍から1.47倍に下がったほか、舞岡(1.34→1.21倍)、百合丘(1.28→1.18倍)、市立幸「普」(1.42→1.25倍)、厚木東(1.21→1.15倍)など落ち着いた倍率に変わった学校もありましたし、横浜氷取沢や横浜立野、上矢部、相模田名は定員割れから1倍を超えるなど志願変更の効果が見られたところもありました。しかしそのような学校は年々減少しつつあるようです。
普通科の倍率はアップしたが専門学科は多くの学科でダウン、学科間格差も拡大
学科別でみると、普通科は1.23倍で前年度(1.22倍)より0.01ポイントアップ、単位制普通科は1.17倍で前年度(1.18倍)よりやや下がったものの全日制全体の平均倍率と同じ倍率を維持しました。
一方で、農業科(1.12→1.09倍)、工業科(0.92→0.85倍)、商業科(1.10→1.04倍)など主要な学科でダウン、専門学科全体でも前年度の1.00倍から0.93倍へと0.07ポイント下がりました。
今年度は特に普通科志向の志願状況になったといえ,専門学科との格差が拡大しました。
学科 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|
普通科 | 1.22 | 1.23 |
農業科 | 1.12 | 1.09 |
工業科 | 0.92 | 0.85 |
商業科 | 1.10 | 1.04 |
専門学科計 | 1.00 | 0.93 |
単位制普通科 | 1.18 | 1.17 |
単位制総合学科 | 1.18 | 1.08 |
単位制専門学科 | 1.06 | 1.21 |
全日制計 | 1.18 | 1.17 |
※専門学科計、全日制計には上記に記載されていない学科の分も含まれます。
横浜北部、中部、川崎に志願者が集中、相模原、横須賀三浦、県西は倍率ダウン
地域別に集計した志願倍率は以下のようになります。
横浜北部の倍率が上がり、この地域だけ突出して高倍率になっています。また横浜中部と川崎もアップ、その一方で横須賀三浦,県西,相模原といった県の周縁部の地域は倍率ダウン、受検生がのぼりの方向に移動しているような様子が伺えます。
倍率が最も高い横浜北部と低い県西の倍率格差が前年度の0.22ポイントから0.34ポイントに広がり、地域間格差も拡大しました。
地域 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|
横浜北部 | 1.31 | 1.37 |
横浜中部 | 1.19 | 1.22 |
横浜南部 | 1.29 | 1.25 |
川崎 | 1.19 | 1.27 |
横須賀・三浦 | 1.19 | 1.13 |
鎌倉・藤沢・茅ケ崎 | 1.28 | 1.28 |
平塚・秦野・伊勢原 | 1.10 | 1.09 |
県西 | 1.09 | 1.03 |
県央 | 1.17 | 1.17 |
相模原 | 1.18 | 1.13 |
不合格者数は前年度より500人増、一方で欠員も500人増
クリエイティブスクールと連携募集の受検者を加えた全日制全体の受検者数は47,036人、受検後の取り消し者数は244人、合格者数は39,093人、実質競争率((受検者-取り消し)÷合格者)は1.20倍でした。前年度の実質競争率1.19倍より0.01ポイント上がっています。志願確定倍率の時点では前年度より0.01ポイント低かったのにこの時点で上がったのは合格者の数が少なかったからです。
その結果、全日制の第二次募集人員は1,521人で前年度(1,039人)より約500人増え過去最多の人数になりました。
その一方で不合格者数も前年度より約500人増え7,699人になりました。
過去最多の欠員が生じた一方で、不合格者数も増えるという偏りの大きい入試になったことが今年度の全日制共通選抜の最も大きな特徴です。
学力向上進学重点校の選抜状況
学力向上進学重点校の選抜状況を見ていきます。
学校名 | 横浜翠嵐 | 川和 | 柏陽 | 湘南 | 厚木 |
---|---|---|---|---|---|
募集人員 | 358 | 318 | 318 | 358 | 358 |
志願者数 | 912 | 441 | 475 | 605 | 495 |
志願確定者数 | 804 | 431 | 453 | 537 | 485 |
倍率 | 2.25 | 1.36 | 1.42 | 1.50 | 1.35 |
受検者数 | 773 | 414 | 445 | 519 | 474 |
合格者数 | 358 | 318 | 318 | 360 | 358 |
実質倍率 | 2.07 | 1.27 | 1.37 | 1.41 | 1.32 |
前年度実質 | 1.80 | 1.36 | 1.32 | 1.49 | 1.30 |
横浜翠嵐高等学校
学力向上進学重点校では先に少し触れましたが、横浜翠嵐が実質倍率2倍を超える過去最高倍率を記録し受検生の半数以上が涙をのみました。新学習指導要領で調査書点が取りにくくなっているようですが、その足りない分を学力で補いやすい学力最重視の横浜翠嵐が人気を集めたのかもしれません。同校は今春も東大に51人の合格者をだしており、来年度は揺り戻しで倍率は下がる可能性がありますが、それでも高倍率は維持すると見込まれます。
川和高等学校
川和は倍率が上がったり下がったりする隔年現象(2019年度より(実質倍率)1.37→1.28→1.36→1.27倍と推移)が見られ、今年度は過去最も低い実質倍率だった2020年度(1.28倍)をわずかに下回り過去最低倍率を更新しました。周辺私立高校や希望ケ丘に移動したようです。しかし来年度は倍率アップする年に当たるほか、希望ケ丘が高倍率激戦だったため、川和に戻ってくる可能性が高く要注意です。
湘南高等学校
横浜翠嵐の影響を受けたと思われる学校に湘南があります。約40人の受検者減となり、湘南としては緩やかな入試になりました。横浜翠嵐の在籍数の約1割は藤沢鎌倉地区からの生徒、湘南の在籍数の約1割が横浜北部からの生徒で相互に関係があります。今年度は藤沢湘南地区からの挑戦が増えたのではないでしょうか。しかしここも来年度は揺り戻しがきて倍率アップするものと見込まれます。
柏陽高等学校
一方で柏陽は倍率が上がり、横浜翠嵐の影響は見られませんでした。もともと前年度に1.32倍と柏陽としては緩やかな入試であったことから,受検生が集まりやすかったようです。ただ実質倍率1.37倍は柏陽としては決して高い倍率とはいえないので、来年度さらに倍率アップする可能性があります。
厚木高等学校
厚木は前年度とほぼ同じ1.32倍でした。厚木の標準倍率は1.2~1.3倍なので安定した入試が続いたといえるでしょう。国立大学の現役合格実績は少しずつ伸びて(2020年春より69→84→99人)います。特にSSH指定校の成果なのか理系の最高峰,東京工業大学には前年度の5人から11人に倍増しました。来年度以降も一定の人気は維持するものと予想されます。
学力向上進学重点校エントリー校の選抜状況
エントリー校の選抜状況を見ていきます。
希望ケ丘高等学校
希望ケ丘の実質倍率の推移をみると、2016年度より1.57→1.14→1.35→1.44→1.18→1.38→1.50倍となり、1.4倍以上の高倍率になった翌年に一気に下がり、そこから2年連続でアップしてまた高倍率になると一気に下がるという動きを繰り返しています。この流れが続けば来年度は倍率ダウンする年になります。
横浜平沼高等学校
横浜平沼は通学の便が良く横浜市だけでなく川崎市や県央地区、鎌倉藤沢地区など幅広い地域から生徒が集まってきます。今年度は実質倍率が1.49倍にアップし、受検生の3分の1の生徒が不合格になる過去最大の激戦でした。来年度は揺り戻しで1.3倍程度まで下がる可能性があります。
光陵高等学校
光陵は横浜緑ケ丘の影響を受け高倍率になりにくくなっているようです。今年度は横浜緑ケ丘の志願者がやや減少したため倍率アップしていますが、まだ光陵本来の入試状況とは言えません。来年度も横浜緑ケ丘の高倍率を敬遠した生徒が移動してくる可能性があり要注意です。
横浜国際高等学校
2021年度よりエントリー校に指定された横浜国際「国際」は、特色検査の変更のためか倍率が上がらず,2年連続で1.1倍台という緩やかな入試でした。一方で「国際バカロレア」は実質倍率1.90倍の高倍率で激戦になりました。開設以来実質倍率は1.15→1.45→1.11→1.90倍と隔年現象の動きになっています。来年度は倍率ダウンの年ですが、バカロレアⅠ期生の成果で一定の倍率は維持するかもしれません。
横浜緑ケ丘高等学校
横浜緑ケ丘は立地が良く、校舎も新しく人気の高い学校です。倍率は隔年現象があり、今年度は倍率ダウンの年に当たっていましたが微減でとどまり、受検生の約4割が不合格になる激戦が続きました。今の入試制度になった2013年度からの平均実質倍率は1.57倍,横浜翠嵐(1.74倍)に次ぐ高さです。鎌倉藤沢地区からの生徒もおり湘南の次善校として選択されるケースもあるようです。
多摩高等学校
多摩も毎年高倍率で激戦になります。今年度も横浜緑ケ丘同様受検生の約4割が涙をのみました。校舎も建て替えられたばかりです。2021年春までの国公立大学への進学実績も伸びています。在籍数の約3割は横浜北部からの生徒で横浜翠嵐の次善校になっています。来年度も高倍率入試が予想されます。
横須賀高等学校
横須賀は生徒の通学圏が横三地区で約7割を占めており、あまり高倍率にはなりません。1.2倍~1.4倍程度が本校の標準倍率といえます。横浜南部の生徒が約2割いて柏陽や横浜緑ケ丘の難度を敬遠した生徒が入ってきているようです。
鎌倉高等学校
鎌倉の倍率には隔年現象があり,2017~2021年度までの実質倍率は1.31→1.17→1.41→1.22→1.42倍と推移していました。この流れから2022年度は倍率ダウンの年に当たりましたが、結果は1.51倍とさらにアップし、過去最大の激戦になりました。校舎の耐震工事を行っており、新しい校舎が完成していることが影響したのでしょうか。来年度は揺り戻しで倍率は下がる見込みですが、一定の倍率は維持するでしょう。
茅ケ崎北陵高等学校
茅ケ崎北陵も倍率アップし実質倍率1.50倍は過去最高倍率です。鎌倉藤沢茅ケ崎地区の生徒数が前年度より約300人増加しておりその影響もあったようです。来年度は倍率ダウンする可能性が高いでしょう。
平塚江南高等学校
平塚江南は実質倍率が1.11→1.20→1.23→1.27倍と上昇傾向です。県西からの生徒が増加しており倍率アップに貢献しているようです。1.2倍程度が本校の標準倍率なので来年度はやや下がるかもしれません。
小田原高等学校
小田原はこの5年間の実質倍率が1.2倍台から1.3倍程度で安定した入試が続きます。生徒の通学圏は県西と平塚秦野地区で7割強を占めますが、鎌倉藤沢茅ケ崎地区からの生徒が増加傾向です。
大和高等学校
大和は高い人気があり高倍率入試になることが多いのですが、校舎の耐震工事中ということもあり今年度は大和としては低めの倍率になりました。横浜北部からの生徒が多く、地元の大和座間綾瀬を上回っています。来年度は倍率アップの可能性があります。
相模原高等学校
相模原は2018~2021年度まで安定した入試が続いていましたが、今年度は受検生が約20人減り、同校としては緩やかな入試になりました。相模原の次善校である相模原弥栄や海老名も倍率ダウンしていることから、周辺私立高校に移動した結果ではないかと考えられます。しかし2021年春までの国公立大学の合格実績は上昇しており、来年度は倍率アップすると予想されます。