高校入試は情報収集がとても重要。ご自分の志望校選択で後悔しないためにも、ここで手を抜いてはいけません。
まずは先輩たちの志願傾向や入試制度変更の影響など、全体的なトレンドを押さえることから始めるのがいいでしょう。
来春に向けた情報戦の第一歩、今春の都立高入試はどのような入試であったのか振り返ってみましょう。
目次
インターネット出願開始
今春の2023年度入試より全校でインターネットを活用した出願が推薦入試と一般入試の第一次募集で導入されました。
【推薦入試】応募倍率は過去最低
全日制の推薦募集人員9,353人に応募者は23,132人、応募倍率2.47倍で前年度(2.54倍)より0.07ポイントダウンし、過去最も低い倍率を記録しました。
都立高校を第一志望としていても、推薦入試に応募しない人も増えており推薦離れが進行しています。
その背景には、過去最低といっても応募倍率は2倍を超える高倍率で合格することが難しいこと、一般入試の倍率が下がってきて合格するチャンスが広がっており、わざわざ推薦入試に挑戦し、その後一般入試も受けるという必要に以前ほど迫られていないこと、私立高の授業料支援制度の充実で私立高に進学しやすいため推薦入試を受ける負担を増やしてまで都立高に挑戦する必要が薄まっていることなどがあるのではないでしょうか。
次の表は、生徒数に対する応募者の割合の推移を示しています。応募者の割合は下降傾向でしたが、2021年度に上がったのはコロナ禍によって検査のひとつだった集団討論がなくなり検査の負担が減ったことや文化スポーツ等特別推薦で大会や資格検定などの実績を求めなくなったためです。それ以降もとの下降傾向に戻っています。
【推薦入試】定員割れは過去最多
応募者数が募集人員より少ない定員割れになったが学校・学科は18校30学科で前年度(13校19学科)を大幅に上回り過去最多になりました。
普通科は5校で青井は男女とも定員割れ、専門学科はほとんどが工業高校で13校24学科のうち11校22学科を占めています。
【推薦入試】学科間格差広がる
普通科男子の応募倍率は2.60倍、女子は3.20倍、単位制普通科2.83倍とそれぞれ前年度よりダウンしました。一方専門学科の動きはさまざまで商業科と農業科は前年度並み、工業科、産業科はダウンし、家庭科はアップとなりました。ただその他の学科を含めた専門学科全体では倍率は下がっています。
学科によって推薦枠に違いがあるため倍率の差が生じるのは当然ですが、普通科と専門学科の倍率格差は大きくなっており普通科に偏った応募状況といえます。
【主な学科の応募倍率】
学科 | 2022 | 2023 |
---|---|---|
普通科男子 | 2.69 | 2.60 |
普通科女子 | 3.25 | 3.20 |
単位制普通科 | 3.11 | 2.83 |
商業科 | 1.38 | 1.39 |
工業科(単位制除く) | 1.35 | 1.21 |
農業科 | 1.99 | 1.99 |
家庭科(単位制除く) | 1.76 | 2.30 |
産業科 | 1.99 | 1.60 |
専門学科計 | 1.63 | 1.55 |
総合学科 | 2.08 | 2.21 |
全日制計 | 2.54 | 2.47 |
合格者数は9,161人、受検者数に対する割合は39.7%でした。倍率は過去最低でも不合格者が半数以上の狭き門であることは変わりありません。
しかし、普通科男子38.0%、女子31.5%、単位制普通科35.4%といずれも30%台ですが、商業科70.1%、工業科(単位制除く)72.8%、農業科50.5%、家庭科(単位制除く)43.5%、産業科62.5%などとなっており、普通科に比べると入りやすくなっていることがわかります。
【一般入試】応募倍率は低迷
一般入試の募集人員(海外帰国生徒枠除く。以下同じ)30,723人に対し志願変更後の最終応募者数は42,128人、応募倍率は前年度と同じ1.37倍でした。
次のグラフのように、応募倍率は下降傾向ですが、この3年間は1.3倍台の過去最低水準で推移しています。
生徒数に対する応募者数の割合も年々減少しており2017年度に60%を超えていた応募率が2021年度からは54%台に下がっています。
しかし、普通科の応募率をみると男女とも減少傾向ではあるものの、ほぼ横ばいで都立高の普通科志向はそれほど衰えていないように見えます。
男女別募集の普通科男子の倍率は1.45倍(前年度1.46倍)、女子1.46倍(同1.46倍)と前年度並み、単位制普通科は1.42倍(同1.48倍)でややダウンしたものの1.4倍台を維持しました。
専門学科では商業科が0.96倍で前年度(0.85倍)よりアップしたものの1倍を超えることはできず、工業科(単位制除く)は0.74倍で過去最も低くなりました。農業科は倍率アップして1.17倍、農業科は人気があり倍率が高くなることが多かったのですが、ここ数年1.0倍台から1.1倍台の低めの倍率が続きます。家庭科(単位制除く)も倍率アップしましたが1.00倍の低倍率。赤羽北桜が加わってから倍率の変動が激しくなっています。産業科は2年連続で倍率ダウン、1.01倍は開設以来最も低い倍率です。
専門学科全体の倍率は前年度よりやや下がって1.01倍となり、これも過去最も低い倍率になりました。
ただ総合学科は倍率アップし5年ぶりに1.2倍台に上がっています。
このように、推薦入試同様普通科と専門学科の格差が大きい普通科志向の応募状況になっています。
【主な学科の応募倍率】
学科 | 2022 | 2023 |
---|---|---|
普通科男子 | 1.46 | 1.45 |
普通科女子 | 1.46 | 1.46 |
単位制普通科 | 1.48 | 1.42 |
商業科 | 0.85 | 0.96 |
工業科(単位制除く) | 0.85 | 0.74 |
農業科 | 1.09 | 1.17 |
家庭科(単位制除く) | 0.65 | 1.00 |
産業科 | 1.13 | 1.01 |
専門学科計 | 1.04 | 1.01 |
総合学科 | 1.14 | 1.28 |
全日制計 | 1.37 | 1.37 |
【一般入試】合格者の状況
受検者数39,608人に対し、合格者数は29,319人、実質倍率は1.35倍で前年度(1.36倍)より0.01ポイント下がりましたが、不合格者数は10,289人で前年度(10,262人)とほとんど変わりませんでした。
応募倍率は過去最低水準が続いているとはいえ、不合格者数は1万人を超えており、周辺地域の公立高入試の中では突出して多くなっています。
地区 | 実質倍率 | 合格率 | 不合格者数 |
---|---|---|---|
都立 | 1.35倍 | 74.0% | 10,289人 |
埼玉公立 | 1.14倍 | 87.4% | 5,009人 |
千葉公立 | 1.20倍 | 83.1% | 5,851人 |
神奈川公立 | 1.20倍 | 83.3% | 7,885人 |
普通科男子の実質競争率は1.42倍で合格率は70.4%、受検生の約3割が涙をのみました。女子は1.37倍で73.3%、後述するように男女別定員制の緩和によって合格者が増え実質倍率が下がりました。単位制普通科も1.37倍で合格率は73.0%と普通科女子とほぼ同じ競争率でした。
専門学科では商業科が実質倍率1.01倍で合格率98.7%、工業科(単位制除く)は1.06倍で94.6%、農業科1.12倍、89.2%、家庭科(単位制除く)1.09倍、91.6%、産業科1.03倍、97.2%と主要な学科で90%前後の合格率になっており普通科との差が大きくなっています。
総合学科は1.22倍、81.8%と普通科と専門学科の間に位置しているような形です。
【一般入試】工業科は改革が浸透せず?
工業高校は4月より学校名を「工科高校」に変更しました。
また、今後学科改編やIT関係科目の設置、企業との連携などさまざまな取組が行われ魅力も増してきていますが、今春はまだ受検生・保護者に浸透しなかったようです。
単位制の六郷工科を含めて工業系高校は16校ありますが、工芸除く15校で欠員が生じ、二次募集を実施しました。
【一般入試】男女別定員制の緩和の影響
男女別募集の普通科は将来の男女合同募集に向けて段階的に選抜方法を変更しています。
まず、2022年度入試で男女定員制の緩和を全校で導入しました(それまでは40校程度で実施)。そしてこの春の2023年度入試では男女別定員制の緩和の男女合同選抜枠を1割から2割に拡大しています。
そして早ければ2024年度入試より推薦入試も含めて募集人員のすべてが男女合同募集に移行するかもしれません。
多くの場合、男女別定員制の緩和では男子の合格者が絞られ、女子が増えるという傾向があり、その逆になる学校は少数派です。
今春の入試で男子の合格者が募集人員の8割で留まった学校は、三田、竹早、豊多摩、井草、神代、広尾、富士森、鷺宮、日本橋、竹台、東村山の11校で、女子の合格者が8割になった学校は東大和南の1校だけでした。
また、合格者が募集人員の85%程度になった学校は男子が城東、昭和、豊島、向丘、江戸川、松原など10校程度あったのに対し、女子は田無、大崎、拝島の3校で男子の合格者を絞る学校が圧倒的に多くなっています。
その結果、次の表にあるように受検倍率は女子の方が高くても実質倍率になると男子の方が高いという逆転現象が起きました。
このような現象は個々の学校では従来から多く発生していましたが、普通科全体で起きたのは久しぶりのことです。
【男子】 受検倍率 | 【男子】 実質倍率 | 【女子】 受検倍率 | 【女子】 実質倍率 | |
---|---|---|---|---|
2017年 | 1.46 | 1.46 | 1.52 | 1.47 |
2018年 | 1.43 | 1.44 | 1.51 | 1.47 |
2019年 | 1.39 | 1.41 | 1.45 | 1.41 |
2020年 | 1.37 | 1.38 | 1.47 | 1.43 |
2021年 | 1.32 | 1.35 | 1.42 | 1.39 |
2022年 | 1.35 | 1.39 | 1.40 | 1.40 |
2023年 | 1.34 | 1.42 | 1.40 | 1.37 |
もし来春の2024年度入試で推薦入試も含めて募集人員のすべてが男女合同募集になると、「募集人員の8割までは男女別に選考」という制限がなくなるので、男女の受検者数と総合成績によってはさらに男子の合格者が減らされる学校がでてくるかもしれません。入学生の男女比のバランスが崩れ女子の入学者が極端に多くなる学校もあるでしょう。
元々男女合同募集を行っている単位制普通科のうち、芦花と大泉桜は今春の入学生の約7割が女子でした。
とはいってもこのような極端な学校は一部で留まり、多くの学校では入学生の男女比が4:6~6:4の範囲内に収まると予想されます。
【一般入試】スピーキングテスト
今春の2023年度入試よりスピーキングテストの結果が一般入試の第一次募集で活用されました。
スピーキングテストはA~Fの6段階で評価し、その評価が調査書に記載されます。
高校側ではAを20点、Bを16点などと点数化し1000点満点の総合得点に加算します。
従って、選考は1020点満点で行われることになったのです。
東京都が発表したA~Fの評価状況は以下のようで平均スコアは60.5と「C」が評価の平均になります。
一方、2023年度の中学3年生の評定状況をみると、英語は以下のようになっておりスピーキングテストの分布状況と似たような割合がついています。
しかし英語の評定「5」の生徒がスピーキングテストで「A」になるとは限らないので、英語の得点が高くてもスピーキングテストの評価が低いために不合格になったり、またはその逆のケースもでてくると考えられます。
ふだんから教科書を音読し英語を話すことに慣れるなどしっかりとした対策が必要になります。