
東京都の都立高入試が私立志向の高まりにより過去最低倍率を記録しましたが,神奈川県公立高入試はどのような入試であったのでしょう。その特徴を挙げながら神奈川県公立高入試を振り返ってみましょう。
<共通選抜(全日制)>
志願締め切り時の状況
特別募集と中途退学者募集を除く募集人員39,395人に志願締め切り時の志願者数は46,104人,志願倍率は前年度(1.19倍)より0.02ポイントダウンし1.17倍になりました。
この時点での定員割れの学校は48校1,801人で前年度(45校1,802人)と欠員数はほぼ同じでしたが学校数が3校増えました。
志願変更後の状況
志願変更を行ったのは前年度より約260人少ない3,434人,変更率は7.4%(前年度7.8%)になりました。志願変更率はここのところ7~8%の高い水準で推移しています。
志願変更しても公立高校に進学したいという受検生が一定程度存在しているようです。
この志願変更により定員割れの学校は36校,欠員は1,438人に減ったものの欠員数は変更前より2割減で留まりました。普通科の定員割れ校と欠員数は変更前の22校679人から13校465人に減り,人数においては志願変更の効果があったものの,定員割れ校は前年度(7校)の倍近くになりました。一方で専門学科は16校29学科584人から14校26学科499人とあまり変わっていません。このように志願変更の効果が普通科のみに現れるのは例年の傾向です。
志願確定者数は46,075人,志願確定倍率は1.17倍で締め切時と変わらず,前年度(1.18倍)より0.01ポイントダウンしました。ここのところ,志願確定倍率は1.17~1.18倍で推移していますが,
今年度の倍率ダウンは,公立高校の募集枠(収容率)が変わらなかったのに対し志願率が下がったことが影響しています。志願率は下降傾向で公立離れが進行していまが,それに合わせるように募集枠も縮小し続けているので倍率があまり下がらないのです。

学科別でみると,普通科は1.22倍で前年度より0.02ポイントダウン,単位制普通科は2年連続で下がりました。1.13倍は近年にない低い倍率です。一方で農業科,工業科,福祉科がアップ,商業科も1倍台を維持するなど専門学科全体で0.98倍に上がっています。単位制専門学科も2023年度並みに戻り普通科と専門学科の差が縮まりました。

受検と合格者の状況
追検査の受検者は51人で前年度(238人)の5分の1に減り,コロナやインフルエンザなどの感染症や体調不良等による検査の未受検者数は4年前の水準に戻り落ち着きを取り戻してきました。
追検査含む受検者数は45,691人,受検後の取消が326人,合格者数は37,941人で実質倍率は前年度より0.01ポイント低い1.20倍になりました。不合格者数は増加傾向から減少に転じ,前年度より624人少ない7,424人でした。
全日制の第二次募集の募集人員は1,479人で前年度(1,448人)とほぼ同じで依然として大量の欠員が生じています。

学力向上進学重点校とエントリー校の選抜状況
学力向上進学重点校とそのエントリー校を合わせた志願者数は毎年7,600~8,100人の範囲で増減しており,今年度はその平均に近い7,836人でした。志願者が増えたり減ったりする隔年現象を示す学校が多く,減少の年に当たった学校が7校,増えた学校が2校,さらに前年度の志願者減の反動で増加したのが3校あり,トータルで平均的な人数を集めました。従って,これら上位層においては挑戦志向でも安全志向でもない落ち着いた志願状況であったといえます。
隔年現象で志願者減になったのは横浜翠嵐,横浜緑ケ丘,横浜国際「バカロレア」,横須賀,鎌倉,小田原,厚木,逆に増加したのは多摩と大和でした。
前年度の志願者減の反動で増加したのは川和,希望ケ丘,柏陽でこのほか光陵は2年連続減,茅ケ崎北陵は3年連続減,逆に平塚江南と相模原は2年連続増,横浜国際「国際」は3年連続増となっています。


上記以外の上位校の選抜状況
上記以外の上位校では,志願者増で倍率アップした学校が目立ち,前年度の安全志向から挑戦志向に戻ったような傾向がみられました。
以下の23校24学科・コース合わせた志願者数は9,056人で前年度(8,841人)より215人増,倍率アップした学校は10校11学科・コースで,ダウンは8校,横ばいが5校でした。
新城が100人以上の志願者増となり1.8倍台の過去最高倍率を記録,市立橘は志願者が初めて300人を超え,11年ぶりに1.5倍台に上がりました。大船は31人の志願者増で525人を集めました。500人台は5年ぶり,志願倍率1.3倍台は8年ぶりのことです。このほか市ケ尾が72人増で,3年ぶりに550人以上となり倍率は3年ぶりに1.4倍台にアップ,相模原弥栄は36人増で5年ぶりに250人台に増え,倍率も1.3倍台に上がりました。追浜は過去2番目に多い394人,1.4倍台は5年ぶり,港北は学級増によって倍率は変わらなかったものの3番目の志願者数を確保しています。
減った方をみると市立桜丘,市立戸塚,生田,松陽が過去最も少ない志願者数になり,このうち市立戸塚は過去最低倍率を記録しました。麻溝台は過去2番目に少ない志願者数になり,6年ぶりに1.0倍台に下がっています。
このように志願者が特定の学校に集中したり敬遠したりする動きが起こり,近年にないような倍率になる学校も多く見られました。


中堅校の選抜状況
しかし,中堅から下の学力層になると一転して志願者減が目立つようになります。私立志向の影響によるものと考えられます。
次の17校合わせた志願者数は前年度に比べて96人の微減ですが,コロナ禍で倍率が落ち込んだ2021年度の水準に戻っています。17校中倍率ダウンは過半数の9校,アップが3校,横ばいが5校でした。
横須賀大津は過去2番目に少ない志願者数で2年連続倍率ダウン,大和西は過去最少で倍率は5年ぶりに1.0倍台にダウンしています。鶴見は4年ぶりの300人台で1.1倍台に落ち込み,上溝南と横浜瀬谷は隔年現象で志願者増の年にもかかわらず減少,上溝南は最低倍率,横浜瀬谷は6年ぶりに1.0倍台に下がりました。横浜清陵は3年ぶりの300人台です。一方で岸根は過去最多の志願者を集め,湘南台は3年ぶりに300人台を確保,住吉と金井は隔年現象で今年度は応募増の年でした。このように上位層と同じような変動が見られていますが,厚い受検者層を保ちつつ学校間で積極的に動いている上位層とは異なり,私学への流出によって層が薄くなっているため志願者の多少の動きでも倍率が大きく変動するのだと考えられます。


通信制との競合校
通信制高校と競合する以下の学校はさらに志願者が減少しています。
表の22校(2025年度は2校減って20校)合わせた志願者数は前年度より574人少ない3,634人でした。グラフをみると減少傾向になっていることがわかりますが,これは通信制志向の高まりに合わせた動きになっています。今年度は横浜旭陵と永谷が募集停止になったため,公立の専門学科に移動したケースもあったと思われますが,私立志向の影響も無視できないでしょう。
募集停止の横浜旭陵と永谷を除いた20校のうち13校で倍率ダウンとなり,アップは6校,横ばいが津久井の1校でした。
また1倍を超えたのは4校だけで16校は定員割れの状態になっています。
保土ケ谷,厚木清南,二宮,菅,愛川,大井は過去最も少ない志願者数となり,うち厚木清南,二宮,愛川は最も低い倍率も記録しています。なお,大井は2026年度より小田原城北工業と統合する予定です。
小田原東は2017年度の開校以来2番目に少ない人数,横浜桜陽,綾瀬西,大師,寒川も過去2番目に少ない志願者数になりました。
増加した学校は田奈(26人増),釜利谷(28人増),横須賀南(21人増)などでクリエイティブスクールに集中しています。


このように上位層では挑戦志向がみられ,中堅から下の学力層では私立高への流出で志願者減になったというのが今年度の公立高入試の大きな特徴です。
来年度,再来年度と私立志向はますます高まってくると予想されます。それにより公立高の志願者数は減少が続くでしょう。そして個々の学校の倍率の変動も激しくなってくるでしょう。
今後,神奈川県の公立高入試について地域別に各校の選抜状況を見ていきます。