神奈川県の私立高入試は特徴的な入試を行っています。
それは「書類選考型入試」というもので、志願者は必要書類を提出し(出願時にエントリーシートという志望理由書や課題作文を提出する場合があります)その書類だけで選考される制度です。従って、志望校に行って検査を受ける必要がなく、受験生は第一志望校の受験勉強に集中できるというわけです。
神奈川県は私立一般入試と公立高入試の検査日が近く、公私両方を受験する場合,数日のうちに双方の入試を受けなければならず負担が大きいということが背景にあります。
もちろん、他の地域で行われている推薦入試や一般入試の併願受験、フリー受験(神奈川県ではオープン入試と言われています。これも後述します)もありますが、2021年度のコロナ禍によって書類選考型入試が一気に広がり、今や県内私立高校の約7割で採用されています。
このような特異性に留意しつつ今春の入試を振り返ってみましょう。
推薦入試の志願者増
首都圏の公立高入試で低倍率が続いているのは、私立高の授業料に対する支援金が充実してきて私立志向の入試になっているからとよくいわれます。推薦入試の志願者は2021年度と比較すると全体で約500人、前年度比約10%の増になり、私立志向がはっきりと表れました。
次の表の学校は、推薦入試の志願者が増えた学校の内、一定規模以上の募集数で増加率の高い学校を取り上げました。
東海大学付属相模は2020年度に出願基準のハードルを上げ、2022年度は緩和しました。その結果、志願者数は2019年度とほぼ同数まで回復しました。
横浜創英は2021年度に出願基準を上げたため志願減、2022年度は基準の選択肢を増やしたことが影響して志願増となり、この4年間でもっとも多い志願者数になりました。推薦定員を大幅に超えていることから、2023年度は出願基準に注意が必要です。
横浜清風が2021年度に志願減となったのは、横浜「アクティブコース」が基準を上げて、総合進学コースと競合するようになったためかもしれません。2022年度は加点項目を追加して志願増になりました。やはりこの4年間で最も多い志願者を集めています。
平塚学園はコース改編を行いました。新コースに対する期待と文理コースに代わる進学コースの募集数を290人から360人に増やしたことも志願者増に影響したのかもしれません。
横浜創学館は加点項目を変更したためか大幅な志願者増となり、推薦志願者が200人を超えました。推薦定員を大幅に上回っているので、ここも2023年度は募集要項に変更があるかもしれません。
このように、出願基準の変更によって志願者が増加している学校ばかりであれば私立志向の高まりとはいえないかもしれません。
しかし、その次の柏木学園から橘学苑は募集要項や出願基準に大きな変更はありませんでしたが、志願者が3割、4割増えています。それは学校の広報活動の成果のほかに受験生が私立高校に向かう傾向が強まっているからではないでしょうか。
横須賀学院は出願基準を上げたのにもかかわらず志願者が25%の増となったのはその傾向をよく表しているように思えます。
<推薦入試の志願者が大幅に増えた学校(一部抜粋)>
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|
東海大学付属相模 | 223 | 161 | 109 | 221 |
横浜創英 | 140 | 162 | 95 | 191 |
横浜清風 | 108 | 140 | 83 | 158 |
平塚学園 | 173 | 144 | 102 | 163 |
横浜創学館 | 188 | 193 | 176 | 248 |
柏木学園 | 165 | 159 | 113 | 151 |
横浜隼人 | 121 | 107 | 102 | 133 |
相模女子大学 | 122 | 112 | 144 | 181 |
横須賀学院 | 77 | 143 | 123 | 154 |
橘学苑 | 118 | 81 | 119 | 146 |
難関校に志願者戻る
前年度の2021(令和3)年度はコロナ禍の中での初めての入試ということで、受験生は安全策をとり慎重な志望校選択を行う傾向が顕著に現われ、以下の県内難関校の志願者が軒並み減少しました。
しかし2022(令和4)年度はこれら3校とも2020年度並みに戻り、安全志向から挑戦志向に転換したような動きになりました。
慶應義塾の一般入試は一次で学科試験を行い、合格者が別日程で二次の面接を受けるというスタイルでした。しかし2021年度にコロナ禍によって急遽二次の面接試験を廃止、2022年度も二次の面接は行いませんでした。2022年度は当初発表された募集要項には二次試験の実施が明記されていたので、2023年度入試についても面接の実施の有無には注意しておく必要があります。
法政大学第二は競争率の高い学校です。実質倍率(受験者÷合格者)は、2019年度より4.49→3.56→3.69→3.11倍と推移しており、2022年度は近年で最も低くなりましたが、それでも3人に1人の合格者しかでていない狭き門です。2022年度に志願者が増加したのに実質倍率が下がったのは合格者を増やしたからです。2019年度からの合格者数は184→216→185→233人と増えたり減ったりしていますが、合格者を増やすということはそれだけ他校併願者が多いということを示しているようです。
法政大学国際も実質倍率が高く、2019年度より3.33→3.77→3.02→3.16倍と3倍台で推移しています。しかし、その中でも前年度の2021年度は共学化(2018年度)以来もっとも低い倍率になりました。そして2022年度は志願者が増えました。法政大学第二と同じように合格者を多く出した(2019年度より124→118→115→129人)ので実質倍率は若干のアップでとどまりました。
<3校の一般入試志願者数>
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|
慶應義塾 | 1,232 | 1,202 | 1,076 | 1,228 |
法政大学第二(学科) | 852 | 788 | 693 | 745 |
法政大学国際(学科) | 430 | 473 | 368 | 429 |
オープン入試の志願者増
冒頭でもふれたように、優遇制度を利用せず、試験当日の学力検査の結果を中心に選考する入試を神奈川県では特に「オープン入試」といっています。東京では「フリー受験」や単に「一般入試」、また神奈川県に隣接する私立高では「オープン入試」と同じ名称を使用することもあります。
そのオープン入試の志願者が増えるというのはどのような入試傾向を示すのでしょうか。通常、神奈川県の併願入試は公立との併願が原則で他の私立高校を受けることはできません。しかしそれがオープン入試であれば認められることがあります。従って、オープン入試の志願者が増えたということは私立高同士の併願者が増加したことを示していると考えられます。これも私立志向のひとつの表われです。
中央大学附属横浜の一般入試には書類選考(A方式)とこのオープン入試(B方式)の2種類です。推薦入試と書類選考の出願基準は公表されていませんが、かなり高いと思われ、その基準に達しない受験生もオープン入試に挑戦しているようです。しかし、募集人員40~50人に対して合格者は90人程度で実質倍率は2019年度より2.71→3.36→3.63→4.80倍と今年度は近年にない激戦でした。
桐蔭学園はB方式(書類選考)の志願者も増加しましたが、こちらは桜美林の出願基準の変更による影響と考えられます。オープン入試の志願者増は中央大学附属横浜や朋優学院との併願者が増加したためではないでしょうか。その結果、オープン入試の実質倍率は前年度の2.38倍から4.94倍に急騰し激戦になりました。
横浜創英は推薦のところでもでましたが、一般入試、オープン入試ともに応募者は増加しました。一般入試の方は出願基準の選択肢を増やしたことと入試日を2月10日から11日に移動したこと,それに横浜翠陵のハードルが上がったことなどが要因ですが、オープン入試の志願増は2021年度の実質倍率が2020年度の5.73倍から3.04倍に下がった反動と考えられます。しかし実質倍率は4.45倍にアップしたので2023年度は敬遠される可能性があります。
横須賀学院も二度目の登場ですがアビリティ(オープン)が倍以上に増えました。S選抜、A進学とも推薦、併願基準をアップしハードルが上がったことから、出願基準のないオープン入試に移動したほか、山手学院や日本大学藤沢との私立併願者が増えたのかもしれません。
鎌倉学園はA方式(書類選考)の志願者数が2019年度より586→455→402→357人と減少傾向ですが、オープン入試の志願者は比較的安定しています。これも私立高同士の併願者が増えていることが背景にあるのではないでしょうか。
次の湘南工科大学附属も麻布大学附属も出願基準を変更しているため、併願受験者がオープンに回ったケースもあったと思われます。しかし私立高同士の併願者増もオープン入試の志願増に一役買っているようです。
<7校のオープン入試志願者数>
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|
中央大学附属横浜(B方式) | 263 | 343 | 345 | 438 |
桐蔭学園(A方式) | 416 | 339 | 541 | 807 |
横浜創英(OP)学科) | 73 | 93 | 84 | 145 |
横須賀学院(アビリティ) | 80 | 56 | 52 | 124 |
鎌倉学園(B方式) | 116 | 116 | 92 | 104 |
湘南工科大学附属(OP) | 72 | 66 | 68 | 84 |
麻布大学附属(OP) | 107 | 141 | 107 | 163 |
2021年度に書類選考型入試が一気に広まりましたが、2022年度は廃止する学校,新たに採用する学校さまざまな動きがありました。
<書類選考を新規に採用または拡大した学校(一部抜粋)>
学校名 | 内容 |
---|---|
武相 | 特進と進学コースで実施していた書類選考を総合、体育にも拡大 |
鵠沼 | 一般入試の専願、併願入試を書類選考に |
湘南工科大学附属 | 進学アドバンスセレクトのみで実施していた書類選考を進学アドバンス、進学スタンダード、技術コースにも拡大 |
聖セシリア女子 | 推薦入試を書類選考に |
光明学園相模原 | 文理のみで実施してた書類選考を総合にも拡大 |
※鵠沼は2020年11月に急遽専願・併願入試を書類選考に変更しましたが、当初の募集要項とは異なるため「新規」として扱いました。
では、これらの学校は書類選考を導入したことで志願状況に変化はあったのでしょうか。
次の表にあるように、必ずしも増えているところばかりではありません。それは書類選考の出願基準が一般的に併願入試より高く設定しているケースが多いからです。
また、湘南工科大学附属のように出願基準を変更したため志願者が大幅に減少したところもあります。
<書類選考を新規に採用または拡大した学校の志願者数(一部抜粋)>
入試区分 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|---|
武相 | 一般計 | 811 | 693 | 570 | 601 |
鵠沼 | 一般のみ(OP除く) | 1,145 | 1,008 | 933 | 1,131 |
湘南工科大学附属 | 一般のみ(OP除く) | 1,859 | 1,732 | 1,805 | 1,597 |
聖セシリア女子 | 推薦入試 | ― | 1 | 11 | 18 |
光明学園相模原 | 一般計 | 2,054 | 2,054 | 1,756 | 1,778 |
※聖セシリア女子は2020年度より高校募集再開。
<書類選考を廃止した学校(一部抜粋)>
学校名 | 内容 |
---|---|
英理女子学院 | 推薦入試を書類選考から面接実施に |
橘学苑 | 推薦入試を書類選考から面接実施に |
横浜富士見丘 | 特進コースで実施していた書類選考を国数英の学科試験に |
日本大学藤沢 | 推薦と一般入試で実施していた書類選考を廃止 |
アレセイア湘南 | 推薦入試を書類選考から面接実施に |
柏木学園 | アドバンスコースで実施していた書類選考を国数英の学科試験に |
※このほか、横須賀学院は2020年11月に急遽、書類選考型入試を取りやめ、Ⅰ期進学とⅡ期選抜に書類選考型を導入しましたが、当初の募集要項と同じためここでは掲載していません。
※横浜学園は2022年度に書類選考から学科試験に変更する予定でしたが、コロナ感染者が蔓延したことから書類選考のままとしたため掲載していません。
では、書類選考を廃止したことによって志願者数はどのように変化したのでしょうか。
英理女子学院は推薦入試に書類選考を導入した2021年度にキャリア部の志願者が増加,2022年度は元の面接実施に戻しましたが、iグローバル部を中心に減となり2020年度並みに戻りました。
橘学苑が2020年度に志願者減となったのは加点項目の変更の影響かもしれませんが、以降は増加傾向です。2022年度は英理女子学院からの移動があったのかもしれません。
横浜富士見丘の志願減は書類選考を廃止したほか、特進男子の定員を減らしたことも影響していると思われます。
日本大学藤沢は推薦入試の志願者が増加傾向です。2022年度は出願基準を上げましたが、募集人員を100人から160人に増やしたことが志願者増につながったと考えられます。一方で一般入試は3割の大幅減、推薦入試にスライドした募集人員の縮小や学科試験に戻したことのほか、大学の問題も影響したと考えられます。
アレセイア湘南は特進選抜、特進、進学の3コース制を特進と探究の2コース制に改編、出願基準を特進選抜と進学に合わせたためか、推薦入試の志願者は増加しました。一方一般入試は530→525人と前年度並みを維持しています。
柏木学園は2022年度に約400人の大幅増になりました。周辺同レベル校の学科・コースも多くは志願増になっていることから通信制高校への流れに歯止めがかかったのかもしれません。また、新しい学習指導要領で評価方法も変わったため、それまでのような評定がつきにくくなったことも影響したのではないでしょうか。
このように書類選考を廃止したからといって必ずしも志願者減になるとは限りません。むしろ出願基準の条件が志願者数により影響を及ぼしているといえます。
<書類選考を廃止した学校の志願者数(一部抜粋)>
入試区分 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|---|
英理女子学院 | 推薦入試 | 86 | 86 | 116 | 89 |
橘学苑 | 推薦入試 | 118 | 81 | 119 | 146 |
横浜富士見丘(※) | 一般(特進) | 34 | 22 | 44 | 31 |
日本大学藤沢 | 推薦入試 | 67 | 112 | 153 | 188 |
日本大学藤沢 | 一般入試 | 745 | 1,077 | 1,389 | 923 |
光アレセイア湘南 | 推薦入試 | 122 | 60 | 116 | 136 |
柏木学園 | 一般入試 | 1,759 | 1,703 | 1,532 | 1,917 |
このように、書類選考を導入すれば志願者が増えるとはいえませんが、実施校、実施学科・コースが増えれば当然利用者も増えます。2022年度は一般入試全体の約6割が書類選考の志願者でした。
2023年度入試でもコロナ感染の状況によって書類選考が導入されたり廃止されたりすると見込まれますが全体的な流れとしては拡大傾向にあります。
その他の動き
上記のような全体的な傾向とは関わりなく、コース改編や出願基準の変更などで志願者数が増減するのは毎年のことです。
そのような学校について一般入試で変化があった学校を少し見ていきましょう。
横浜翠陵が2021年度に志願者増になったのは、コロナ禍によって中学校生活に制限が生じたことから加点項目を変更したからです。そして2022年度はその加点項目を削除するなどハードルを上げた結果、志願者数が4割強の減になりました。
横浜清風も総合進学コースの加点項目を追加したことから志願者が大幅に増加しましたが、特進も志願増になりました。
湘南学院は国公立アドバンスをサイエンス(特進理数)に、アドバンスをアドバンス(特進)に、選抜スタンダードをアビリティ(進学)に,スタンダードをリベラルアーツ(総合)に改編、サイエンスは旧国公立アドバンスより高い出願基準を設定したため志願者は減少しましたが、他の3コースは新コースに対する期待の現われか志願者増になりました。
藤沢翔陵もコース改編があり、特進を文理融合探究、文理を得意分野探究コースにしました。出願基準も変更していますが、こちらも新しいコースへの期待からか志願者は増加しています。
<コース改編等をした学校の志願者数(一部抜粋)>
入試区分 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|
横浜翠陵(OP除く) | 697 | 698 | 833 | 463 |
横浜清風(OP除く) | 1,500 | 1,403 | 1,289 | 1,710 |
湘南学院 | 1,751 | 1,455 | 1,255 | 1,339 |
藤沢翔陵 | 512 | 446 | 390 | 442 |