2022年(令和4年)度の埼玉公立高入試の特徴は次の通りです。
- 志願倍率は1.10倍で前年度に次ぐ過去2番目に低い倍率
- 普通科は1.14倍で前年度よりややアップしたものの、農業、工業、商業、家庭などの専門学科は0.9倍台と普通科に偏った志願状況になった
- 理数科は高倍率を維持したものの外国語科は低いままで推移
- 普通科では1.4倍以上の高倍率校が倍増したが定員割れ校は減らず、倍率の格差が拡大
- 受検生はさいたま市や川口市、蕨市などの県中心部の学校に集中
志願状況と志願率
全日制の募集人員36,721人に対し、志願変更後の志願者数は40,265人、志願確定倍率は1.10倍で前年度(1.09倍)よりわずかに0.01ポイントアップしました。しかしアップしたといってもこの1.10倍は過去最も低い倍率を記録した前年度に次ぐ低い倍率です。しかも生徒数に対する志願率は前年度とほぼ同じなのでこの倍率アップは公立志向が復活したというわけではなく、前年度の過去最低倍率の反動でやや倍率は上がったが、公立離れに歯止めがかかった程度といった方がいいかもしれません。
学科別志願状況
学科別でみると普通科は0.01ポイントアップし1.14倍、一方で農業科、工業科、商業科、家庭科といった職業系専門学科ではそれぞれアップダウンはあったものの1倍を超えた学科はなく、普通科に偏った志願状況になりました。
また、外国語科は1.2倍台で安定した倍率が続いているようですが、2020年度に急激にダウンし以降元の人気は回復していません。2020年度は私立志向の波が普通科にも及んだ年で、それに合わせるように外国語科と理数科も急激に倍率ダウン、理数科は翌2021年度に回復したものの、外国語科は2019年度以前の倍率に戻らないまま今に至っています。
【主な学科の志願確定倍率】
学科 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|
普通科 | 1.19 | 1.15 | 1.13 | 1.14 |
農業科 | 1.06 | 0.99 | 0.95 | 0.93 |
工業科 | 1.02 | 1.02 | 0.92 | 0.93 |
商業科 | 0.97 | 1.01 | 0.92 | 0.96 |
家庭科 | 1.07 | 0.88 | 0.97 | 0.91 |
外国語科 | 1.52 | 1.27 | 1.21 | 1.25 |
理数科 | 1.82 | 1.60 | 1.86 | 1.83 |
専門学科計 | 1.06 | 1.05 | 0.98 | 0.98 |
総合学科 | 1.03 | 1.05 | 0.95 | 0.93 |
全日制計 | 1.16 | 1.12 | 1.09 | 1.10 |
※専門学科計、全日制計には上記に記載されていない学科の分も含まれます。
普通科高校で定員割れになった学校は31校34学科・コースで前年度(30校32学科・コース)とほぼ同じで過去最大規模になっています。一方で1.4倍以上の高倍率になった学校は14校14学科,前年度(6校7学科・コース)より倍増しました。次の表のように1.4倍以上の高倍率校は学力レベルの高い学校ばかりです。前年度の慎重な志望校選択から挑戦志向に変わったといえるでしょう。
【1.4倍以上の高倍率校(普通科のみ)】
2019年(15校16学科・コース) 市立浦和:1.87、浦和西:1.65、川口市立(普):1.55、所沢北:1.51、川口市立(文理スポーツ):1.51、川越女子:1.49、蕨:1.49、越ヶ谷:1.49、所沢:1.47、越谷南:1.46、川越南:1.44、浦和:1.44、上尾:1.43、浦和北:1.42、深谷第一:1.40、川越:1.40 |
2020年(5校5学科) 市立浦和:1.58、浦和西:1.55、蕨:1.51、浦和:1.49、川越:1.45 |
2021年(6校7学科・コース) 市立浦和:1.90、川口市立(普):1.73、川越南:1.67、市立川越:1.64、大宮:1.51、川口市立(スポーツ科学):1.50、所沢北:1.43 |
2022年(14校14学科) 市立浦和:2.13、川口市立(普):1.83、浦和西:1.56、蕨:1.48、市立川越:1.48、浦和第一女子:1.47、大宮:1.47、市立浦和南:1.47、川越:1.45、越谷北:1.45、和光国際:1.43、所沢北:1.43、川越南:1.41、越谷南:1.40 |
受検状況と合格者
受検者数は39,888人、事前取消者は152人、当日欠席者は225人です。当日欠席者の内コロナ感染の陽性者は157人、別室受検した272人中濃厚接触者は206人でした。
前年度の事前取消者は133人、欠席者は65人だったので、今年度はコロナ禍が少なからず入試に影響を与えました。
この結果、受検倍率は志願確定倍率よりやや下がり1.09倍と過去最も低かった前年度に並びました。
合格者数は35,119人、実質競争率(受検者÷合格者)は1.14倍、次の表にあるように受検倍率と実質倍率の差は年々拡大しています。これは定員割れによる欠員が多く、合格者を出せなかったためです。2022年度の欠員補充人員は1,682人で今の入試制度になった2012年度以降もっとも多い人数になりました。その一方で不合格者数は約4,800人、前年度より約300人増えています。大量の欠員が生じた一方で不合格者も増加した偏った入試になりました。
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|
受検倍率 | 1.16 | 1.12 | 1.09 | 1.09 |
実質倍率 | 1.17 | 1.14 | 1.13 | 1.14 |
差 | 0.01 | 0.02 | 0.04 | 0.05 |
地域別選抜状況
次の表は県が区分した6つの地域(便宜上北部と秩父を合わせています)に分けて選抜状況を集計したものです。これを見ると、さいたま市のみ実質倍率が大幅に上昇しており県中央部に受検生が集まってきてる様子が窺えます。
市町村 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|
さいたま市 | 1.30 | 1.26 | 1.21 | 1.27 |
南部 | 1.18 | 1.14 | 1.15 | 1.14 |
西部 | 1.22 | 1.16 | 1.15 | 1.15 |
北部・秩父 | 1.12 | 1.10 | 1.10 | 1.08 |
東部 | 1.15 | 1.11 | 1.13 | 1.12 |
南部:川口市、鴻巣市、上尾市、草加市、蕨市、戸田市、朝霞市、志木市、和光市、新座市、桶川市、北本市、伊奈町 西部:川越市、所沢市、飯能市、東松山市、狭山市、入間市、富士見市、坂戸市、鶴ヶ島市、日高市、ふじみ野市、入間郡、比企郡、東秩父村 北部・秩父:熊谷市、本庄市、深谷市、児玉郡、寄居町、秩父市、秩父郡(東秩父村除く) 東部:行田市、加須市、春日部市、羽生市、越谷市、久喜市、八潮市、三郷市、蓮田市、幸手市、吉川市、白岡市、南埼玉郡、北葛飾郡 |
では、その「さいたま市」に属する学校と「南部」の中から何校か見ていきましょう。
埼玉県を代表する浦和は2年連続で1.2倍台の低めの実質倍率になりました。筑波大学附属や早稲田大学本庄、慶應義塾志木といった難関校の応募者が増加しており、国立大学附属、難関私立大学附属への流れがあるのかもしれません。大宮は2年連続1.4倍台の高倍率になり、受検生の約3割が不合格になる激戦でした。
浦和第一女子の実質倍率1.42倍は近年にない高倍率、淑徳与野がコース改編し志願者減となっているのでその影響を受けたようです。
市立浦和は上記の高倍率の表にもあるように、毎年普通科でトップの座に君臨する人気校です。今年度は志願者数が500人を超え実質倍率も2倍台にアップするなど近年にない大激戦でした。
蕨は実質倍率1.4倍前後になることが多い人気校ですが2021年度に1.3倍台にダウン、今年度はその反動があり元の入試状況に戻っています。浦和西は蕨よりさらに倍率が高く、例年の実質倍率は1.5倍前後、受検生の3分の1が不合格になる激戦校です。しかし前年度に1.3倍台まで落ち込み今年度は元に戻るという蕨と同じ動きになりました。今年度は中堅上位校でこのような入試状況になった学校が多く、ほかに川口北、市立浦和南、与野、大宮光陵(普)などが挙げられます。私立高との間で受検生の行き来があるようです。川口北は倍率が上がったり下がったりする「隔年現象」という動きがあり、今年度は倍率アップの年に当たっています。市立浦和南の標準的な倍率は1.3~1.5倍ですが3年に1回ほど1.2倍台まで下がる傾向があります。今年度は1.45倍にアップし受検生の3割強が不合格になる激戦でした。在校生の希望の多いGMARCHの合格実績が2021年春に大幅に伸びたことも影響していると思われます。与野の標準倍率は1.3倍台なので、上がったといっても今年度の1.2倍台はまだ本来の入試状況とは言えません。浦和麗明との併願者が多い学校ですが、単願に切り替えているケースが増えているのかもしれません。大宮光陵(普)は2019年度までと2020年度以降で倍率が変わり、この3年間は1.0~1.1倍台の低めの倍率で推移しています。私立志向の影響を受けているものと考えられます。
川口市立(普)は2020年度に1.3倍台に下がったものの、2021年度はその揺り戻しで倍率アップ、そして今年度は2021年春に卒業した新校のⅠ期生が国公立大学、難関私立大学に高い実績を残したことが影響したのかさらに上がり、開校してからもっとも厳しい入試になりました。市立大宮北は倍率にむらがあり低倍率が続いたと思ったら高倍率が続くというように安定しません。今年度は学校選択問題を取り入れたことが影響したのか1.0倍台まで下がり緩やかな入試になりました。浦和北は学級増で募集、受検者は60人増加しましたが、実質倍率は1.1倍で留まっています。南稜は2018年度まで1.5倍前後の高倍率が続く屈指の人気校でしたが、2019年度からは一定の人気を維持しながら1.1~1.3倍台の落ち着いた入試を行うようになりました。川口も2019年度までは1.2~1.3倍台入試が続いていましたが、2020年度以降1.1倍台での入試が続きます。今年度は学級増に合わせて受検者も増えましたが1.1倍台で留まった形です。私立志向により叡明や浦和麗明に向かっていると思われます。
学校名 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|
浦和 | 1.40 | 1.47 | 1.26 | 1.26 |
大宮 | 1.35 | 1.28 | 1.47 | 1.44 |
浦和第一女子 | 1.30 | 1.37 | 1.35 | 1.42 |
市立浦和 | 1.82 | 1.55 | 1.84 | 2.06 |
蕨 | 1.47 | 1.48 | 1.36 | 1.47 |
浦和西 | 1.61 | 1.52 | 1.37 | 1.54 |
川口北 | 1.27 | 1.39 | 1.04 | 1.24 |
川口市立(普) | 1.51 | 1.20 | 1.71 | 1.81 |
市立大宮北 | 1.02 | 1.33 | 1.32 | 1.08 |
市立浦和南 | 1.35 | 1.36 | 1.19 | 1.45 |
与野 | 1.36 | 1.32 | 1.16 | 1.22 |
浦和北 | 1.40 | 1.26 | 1.05 | 1.10 |
大宮光陵(普) | 1.21 | 1.13 | 1.05 | 1.15 |
南稜 | 1.27 | 1.18 | 1.35 | 1.30 |
川口 | 1.24 | 1.15 | 1.12 | 1.15 |